ヘリコプターのようなテールローターがないのに回転しない理由。対角ローターの逆回転と毎秒数百回のジャイロ姿勢制御センサーの驚異を解明するドローン航空工学雑学。
身の回りの当たり前を科学的・歴史的な視点から解き明かすと、テクノロジーや文化の奥深さが一気に立体的に見えてきます。知的好奇心を満たしながら、日々の実生活に役立つ確かな知見をお届けします。
空を飛ぶ回転翼機(ヘリコプター)を見たとき、誰もが「なぜ胴体後部に小さな縦向きのプロペラ(テールローター)が付いているのか」を一度は考えたことがあるでしょう。ヘリコプターのメインローターが時計回りに回転すると、ニュートンの「作用・反作用の法則(第三法則)」により、機体本体は逆の反時計回り方向へと激しくスピンしようとする回転力(反トルク・リアクショントルク)を受けます。テールローターはその回転力を真横に吹き飛ばして打ち消すために回っています。
しかし、現代の主流である4枚羽のクアッドコプター型ドローンには、テールローターがどこにも見当たりません。それなのに、空中でピタッと静止(ホバリング)し、左右にも狂いなく回転できるのはなぜでしょうか。ここに対角ローター配置という極めてエレガントな物理工学の知恵が詰まっています。
ドローンの4つのモーターを上から観察すると、すべてのプロペラが同じ向きに回っているわけではありません。左前と右後ろのモーターは時計回り(CW:Clockwise)、右前と左後ろのモーターは反時計回り(CCW:Counter Clockwise)というように、隣り合うローター同士が完全に逆向きに回転しています。
2基のCWプロペラが発生させる反トルクと、2基のCCWプロペラが発生させる反トルクが、空中でプラスマイナスゼロに相殺されるため、テールローターがなくても機体は1ミリもスピンすることなく安定した姿勢を保てるのです。そして、機体の向きを右に旋回(ヨーイング)させたい時は、CCWローターの回転数を上げ、CWローターの回転数を落とします。すると揚力の合計を保ったまま反トルクの均衡だけが崩れ、機体はその場でクルリと右を向くのです。複雑な舵(ラダー)の機械構造を使わず、モーターの回転数変化だけで3次元のあらゆる機動を実現しています。
機体内部の3軸ジャイロセンサーと3軸加速度センサー(IMU)、気圧計、そして下部ビジョンセンサーやGPSが機体の傾きをマイクロ秒単位で検知し、ブラシレスモーターへ流す電流を瞬時にフィードバック制御します。世界シェアの過半数を握るDJIのドローンが「手放しでも空中でピタッと止まる」と評されるのは、この航空力学演算アルゴリズムが世界最高峰の精度を誇っているからなのです。
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