「親が危篤になった」「今日明日が山場と医者に宣告された」という極限状態の中で、家族が最も焦るのが「亡くなったら銀行口座が凍結されて葬儀代やお寺へのお布施が出せなくなる!」という恐怖です。そのため、親のキャッシュカードを持って病院を抜け出し、ATMで限度額いっぱいの数百万円を慌てて引き出す光景が日常茶飯事となっています。
しかし、法律と税務の観点から言えば、親の死亡直前の預金引き出しは、極めてハイリスクな危険行為です。悪気はなく単に葬儀費用を準備したかっただけであっても、後日、税務署や他の兄弟親族から「使い込み」「遺産の隠蔽」と厳しく追及され、泥沼の相続争いや重い追徴課税へ発展するケースが後を絶ちません。
「市役所に死亡届を出したら、その瞬間にマイナンバー経由で銀行に通知がいき口座が凍結される」と信じ込んでいる方が非常に多いのですが、これは完全な誤解です。
銀行口座が凍結されるトリガーは、「遺族が銀行の窓口へ死亡の事実を申し出た時」または「地元の新聞のおくやみ欄に掲載された時」です。市役所が金融機関へ死亡情報を自動通知するシステムは現在日本には存在しません。したがって、遺族が銀行へ連絡しない限り、死亡翌日に即座にキャッシュカードが使えなくなるわけではありません。
だからといって、死亡後に暗証番号を使って勝手に引き出す行為は、民法上は「相続財産の無断処分」であり、形式的には私文書偽造や詐欺罪の構成要件に抵触し得る不法行為となります。
「では、口座が凍結されたら葬儀代はどうやって払えばいいのか?」という国民の声に応え、2019年7月の民法改正により「預貯金の払戻し制度(仮払い制度)」がスタートしました。
この制度を使えば、遺産分割協議が成立していなくても、各相続人が単独で亡くなった親の口座から当面の必要資金を法的に引き出すことができます。
各相続人が引き出せる限度額は以下の計算式で算出されます。
単独で引き出せる額 = 死亡時の口座残高 × 1/3 × 申請者の法定相続分
※ただし、同一の金融機関(銀行・信金等)からの払戻し上限額は「最大150万円」と定められています。複数行に口座があれば、それぞれの金融機関ごとに最大150万円まで引き出すことが可能です。
必要書類(被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、申請者の印鑑証明書など)を銀行窓口へ提出すれば、数日から1週間程度で合法的に現金を受け取ることができます。
どうしても死亡直前・直後に引き出した現金で葬儀費用を支払う場合、税務調査を100%無傷でクリアするための鉄壁の自衛策があります。
| 相続財産から控除できる費用(節税になる) | 相続財産から控除できない費用(対象外) |
|---|---|
| ・通夜、告別式の葬儀社への支払い費用 ・火葬料、埋葬料、遺体搬送料 ・僧侶へのお布施、戒名料、御車代 | ・墓石、墓地の購入費用 ・初七日、四十九日以降の法要費用 ・香典返し(返礼品)の費用 |
寺院へのお布施のように領収書が出ない支出については、「支払日、寺院名、住職名、支払金額、お布施の内訳」をメモ帳に出金伝票として記録しておけば、税務署も正当な控除として認めてくれます。引き出した現金の使途を1円単位ですべてノートにまとめ、領収書をスクラップブックに貼っておくことが、税務調査官と兄弟の不信感を封じる唯一無二の防壁です。
京都を拠点に不用品回収・遺品整理・空き家対策・生活インフラ支援を展開。現場の第一線で培った実務ノウハウと正確な法令・税制データに基づき、暮らしの不安を解消する実践的ガイドを発信しています。